うすいえんどうとは?
「うすいえんどう」という豆の名前を聞いたことはありますか?うすいえんどうは、春から初夏にかけて旬を迎えるえんどう豆の一種です。グリーンピースに似ているのですが違う品種になります。茹でると鮮やかでやさしい黄緑色とホクホクとした甘みのある味わいが特徴です。さやごと食べられるサヤエンドウとは異なり、豆の部分を食べるえんどう豆です。
品目 | うすいえんどう(紀州うすい) |
分類 | マメ科エンドウ属 |
産地 | 和歌山県・大阪府など |
種まき時期 | 11月頃(露地栽培) |
収穫時期 | 露地栽培:4~5月頃 ハウス栽培:12~4月頃 |
主に和歌山県を中心に栽培されており、特に関西地方で豆ごはんと言えば「うすいえんどう」というように長く親しまれてきました。地元では略して「うすい豆」と呼ばれています。
本記事ではうすいえんどうの特徴や食べ方(茹で方)、サヤが食べられるかどうか、豆の栽培方法などを生産歴20年以上の生産農家が詳しくお教えいたしますので、どこのサイトよりも詳しいと思います。豆ごはんをはじめ、うすいえんどうを使ったレシピについては別の記事で詳しくご紹介したいと思います。これからうすいえんどうをはじめて食べてみる方やはじめて栽培される方の参考になれば幸いです。
うすいえんどうの歴史
うすいえんどうは明治時代に大阪府羽曳野市の碓井(うすい)地区にアメリカから導入されました。また、えんどう豆の歴史はとても古く、古代ギリシャ時代にはすでに栽培されていたそうで、最古の野菜ともいわれています。原産地は地中海から中央アジアとされており、11~13世紀にはヨーロッパで栽培が盛んになりました。
日本へは江戸時代中期にヨーロッパ系のさやえんどう豆の品種が導入されましたが、サヤ用、青実用と品種が区分されたのは明治時代に欧米から多数の品種が入ってきてからです。うすいえんどうもその中のひとつの品種でした。
うすいえんどうの特徴と味わい
それではうすい豆の特徴を説明していきます。
うすいえんどうは、外の莢(さや)を取って中の未成熟の実を食べる「実えんどう」です。サヤの中には4から6粒ほどが入っています。実が大きく上品で繊細な甘みがあり、ほくほくとした食感が特徴です。新鮮かつ上の写真のように適度な未熟さが絶妙に美味しいのです。熟し過ぎると黒いお歯黒が現れてきます。
グリーンピースと比べて皮が薄く青臭さも少ないので、グリーンピースが苦手な方でもうすい豆は食べられるという方もおられます。色はグリーンピースに比べて少し黄緑に近い色合いです。
日持ちが短かく収穫した瞬間から鮮度が落ちていきますので、とにかく新鮮なものを選ぶことが大事です。冷蔵庫で保管していると日に日に固くなり美味しくなくなっていきます。できれば生産者から直送で購入するのがおすすめです。
全国にはあまり出回っておらず、主に関西地域で流通、消費されています。関東の方には馴染が薄いとは思いますが、鹿児島などのグリーンピースと食べ比べていただきたいです。上品な甘みやふっくらとしていてホクホクとした食感は唯一無二の美味しさです。
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和歌山県での栽培
大阪府で栽培がはじまったうすいえんどうですが、今や和歌山県が一大産地となっています。その理由は、霜が降りにくいという温暖な環境が整っていたからです。現在では和歌山県の特産品となっており、地域ブランド「紀州うすい」として平成18年に地域団体商標に認定されました。現在は主に関西圏のスーパーなどへ流通しています。
中でも和歌山県中部の日高地方が一大産地となっています。露地、ハウスともに栽培されており、ハウス栽培の出荷時期は12~3月頃、露地栽培の出荷時期は4~5月頃になります。主に日高町、御坊市、日高川町、印南町、みなべ町です。
日高地域の栽培面積は約205ヘクタールほど。露地栽培のうすい豆の収穫がピークは毎年ゴールデンウィーク前後です。5月4日の緑の日は「うすいえんどうの日」として、和歌山県内のスーパーなどでは豆の早むき大会等のイベントも開催されています。
うすいえんどうの食べ方(茹で方)
ここでは生産者が教える美味しい塩茹での食べ方、茹で方をご紹介いたします。上にも書きましたが、うすい豆は収穫した直後から鮮度が落ちていき、味や食感が失われていきます。そのため、買ってきた豆はすぐに調理して食べるのがおすすめです。
料理に入れずに塩茹でする場合のレシピになります。料理に入れるレシピは別の記事でご紹介したいと思います。
用意するもの(材料)
うすいえんどう(実のみ) | 300g |
塩 | 小さじ1(5g) |
水 | 600ml 豆に対して2倍 |
- 塩は水に対して約1%程度を目安にしてください。
- 水の量は豆に対して2倍が目安です。
- ひたひたより多いくらいのお鍋がちょうど良いかと思います。
茹でる前の準備
うすいえんどうは通常サヤに入った状態のものを購入し、野菜室などで保存しておきます。調理直前にサヤから剥いて中の実を出すようにしてください。サヤの剥き方は下に別途記載していますので、そちらを確認してください。
サヤから出すと実だけの重量は元の40%ほどになります。サヤ入りで購入する場合は1kgほど購入されるのが良いと思います。地元和歌山では剥いた豆も販売されていますが、サヤ入りが新鮮でおすすめです。
茹で方(塩茹で)方法
- まずはお鍋に豆と塩を水を入れます。
- 強火にかけ沸騰させます。
- 沸騰したら弱火で約5分ほど煮ます。
- 茹で上がったらすぐにザルには移さず、お鍋に少しずつ水を足してゆっくり冷ましていきます。(※冷水で一気に冷やすと豆の表面がしわしわになってしまいます)
- 冷めたらザルに上げて出来上がりです。
おすすめの食べ方
茹で上がったらすぐに食べるのがやわらかくて美味しいのでおすすめです。時間を置くごとに皮が固くなっていきます。お好みで少し塩を付けても美味しいです。お子さまのおやつや、お酒のつまみとしても良く合います。
サヤは食べれる?
うすいえんどうのサヤそのものは基本的には食べられません。やわらかく煮込んだとしても食べることはおすすめしていません。私はサヤを食べたことがありません。サヤを使ったレシピなどもレシピサイト等にありますが、生産者としてはサヤを食べることには抵抗があります。
その理由は、うすいえんどうは無農薬や有機栽培農法で栽培するのが非常に難しいので、ほとんどの生産者がJAが推奨する慣行農法で防除をされているからです。必ずしも農薬が残っているというわけではありませんが、サヤを食べたり、豆ごはんの時に実を出したサヤを入れて一緒に炊いたり、サヤを煮込んで出汁を出すというのは、生産者の目線ではおすすめしていません。
保存方法
冷蔵保存
サヤ入りで購入された場合はサヤのまま冷蔵庫(野菜室)で保存します。冷蔵の場合の保存期間は2~3日ほどです。とにかく早ければ早いほど美味しいので、長く保存されることはおすすめできません。
冷凍保存
うすいえんどうは冷凍保存に向いています。サヤから剥いた豆をジッパー付きの袋に入れて保存します。生のままでも冷凍できますが、少し固めに下茹で(2分ほど)した豆を冷まして水気を切ってジッパー袋に保存するのがおすすめです。下茹でしておくと、解凍して料理に使う際にすぐに入れて使うことができるからです。
冷凍保存の期間は1~2ヵ月ほどになります。特に露地栽培のうすいえんどうは4~5月頃にしか手に入らないので、少し多めに購入して冷凍しておくと便利です。
サヤの剥き方
向きの確認
サヤの上下を確認して、湾曲している部分を上にします。
サヤを押す
湾曲した方を上にして、中央から端に向かって手でしっかりと押します。
サヤを割る
きれいに割ることができました。若い豆ほどサヤに強く付いています。完熟になってくるほど豆は外れやすくなります。
容器に入れる
豆は結構飛び出しやすいので、注意しながら片方の端から、もう片方の端に向かって指を滑らせるようにして容器に入れていきます。
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熟度の違い
未熟のうすい豆
うすいえんどうは、基本的に未熟の実を食べます。未熟ほど甘くてやわらかくて美味しいのです。ただし実が完全に大きくなりきっていないので、少し小さく感じます。
完熟のうすい豆
完熟のうすい豆は見た目でわかります。黒い点が付いているからです。完熟なると実が大きくなりますが、皮が固くなり食べた時の食感も固く感じます。
サヤの状態で未熟か完熟かを見分ける場合は、サヤが薄い場合は未熟の可能性が高く、サヤがパンパンに大きくなっている場合は中の実も完熟になっていることが多いです。
露地栽培とハウス栽培の違い
ちなみに露地栽培とハウス栽培の違いですが、サヤや実の緑色が薄いのがハウス栽培です。露地栽培は直接日光を浴びているので、サヤも中の実も濃い緑色になります。味については個人の好みもあるかもしれませんが、露地栽培の方が味が濃いと言われています。
出荷時期も異なりますので、購入時期をしっかりと見極めてください。
うすいえんどうの栄養素
うすいえんどうは栄養が豊富で豆類の中でも炭水化物が多く含まれています。他にもビタミンB1・B2・B6、食物繊維、カリウム、鉄分、葉酸、たんぱく質、鉄、カロテンなど、多くの栄養素が豊富に含まれています。
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うすいえんどうの栽培方法
種まき準備(マルチ張り)
露地栽培の場合は10月頃から畑の準備をはじめます。直まきの約2週間前までに土作りをします。うすいエンドウの根は湿度に弱いので畝はなるべく高くします。石灰、化成肥料等を撒いた畑にマルチシートを張ります。マルチは雑草を抑え、水分と肥料分を保持する働きがあります。
排水のよい耕土の深い壌土、あるいは粘土質土壌が適しています。酸性土壌に対しては特に弱い作物ですので土壌pHは6.0前後になるように、石灰を10a当たり80~100kgを基準に施します。
種まき
11月頃に種まきを行います。基本的には直まきになります。軽く土をかぶせます。株間は30cm程度あけます。うすいえんどうは気温の低下する秋に播種し、耐寒性の強い幼苗で冬を越すようにします。
マルチシートに穴を開け、4粒ほど入れていきます。発芽適温は18~20℃ほどです。
2月になり苗が少し育ってきました。ここから半年ほどかけて育てていきます。生育適温は12~20℃です。25℃以上になると草勢が極端に弱くなり、徐々に枯れてきます。
連作障害
マメ科の植物は連作障害といって、同一の畑で連作すると次第に生育が不良となり、生育が悪くなります。いや地と呼ばれ、3~5年の間隔で輪作を行う必要があります。同じ畑やハウスで連作を行う場合は、土壌消毒を入念に行う必要があります。
ネット張り
1月から2月頃、発芽が始まれば支柱を立て、誘引ネットを張ります。うすいえんどうはつる性なので、支柱やネットを設置して、茎が絡まりやすい環境を作ります。支柱の間隔は2~3mです。大きく育つごとに、紐でつるを挟むように引っ張り倒れてこないようにします。
開花
3~4月頃に花が咲きます。きれいな白い花です。この後、実が大きくなっていきます。
整枝
日照不足によって結実不良を起こしやすくなるので、十分に太陽の光が当たるようにつるの整枝と誘引をするようにします。茎は折れやすいので注意が必要です。3月下旬頃までに出た分枝(側枝)を残し、それ以降に分かれた枝や花つきの悪い枝は整枝します。
収穫前の畑
収穫前には防除などをおこない、病気や虫にやられないように対策をします。それ以外にも鳥獣害も多いので、それらの対策もおこないます。
収穫
4~5月頃に収穫です。収穫作業は全て手作業。収穫用の機械などはありません。非常に手間暇のかかる作業になります。
選別作業
収穫したうすいえんどうを選別するのも手作業です。下の写真のように色々なサイズの豆があります。一番上のものはしっかりと実が詰まっていますが、真ん中の豆は中央部分に豆がありません。これはランクダウンとなります。一番下は2~3粒しか入っていないので下のランクの規格となります。JA(農協)では規格が決められているため、その規格に沿って選別していきます。
まとめ
うすいえんどうはグリーンピースよりも味が良いといわれており、関西圏を中心に春の旬野菜として長く親しまれてきました。豆ごはんや卵とじ、もちろんグリーンピースと同じように料理に使うことができます。栄養素も豊富ですので、是非春の時期にはうすいえんどうを食べてみてくださいね。
生産量は年々減っています
うすいえんどうの栽培は手間がかかりますので、近年は生産量が減ってきており、価格も高騰しており、高級野菜と言われるようになってきています。特に露地栽培は気候状況にも左右されますので、年々生産者が減ってきているのが現状です。
うすいえんどうの価格
価格は年々高くなってきており、2025年時点ではサヤ付き1kgで2,000円前後となっています。生産者が減ればさらに価格は高騰する可能性があります。スーパーなどでは200gで500円程度かと思います。
うすいえんどうの通販
うすいえんどうの通販で美味しい豆を見極めるコツはできる限り新鮮なものを選ぶようにしてください。特に生産者直送のお店などは新鮮なものを配送してくれる可能性が高いのでおすすめです。また収穫日当日発送など、そのような文言があるかどうかなども確認しましょう。